滑稽本手控え

Kokkeibon book note

江戸時代に創作された滑稽本(町人の日常生活におけるおかしさを書いたようなもの)の意訳をしたときのメモです。

# 項目 内容
1 北八について 本来は、『喜多八』なのでしょうが、『北八』に変わっているところが多々見えます。
いえ、むしろ、後半は、ほとんど『北八』です。

これは、多分、滑稽本の作成の手順が面倒だったからではないかと考えます。
なにしろ版木を彫っていたのですから、それは大変な作業だったことでしょう。
まあ、滑稽本と言うジャンルですから、その辺りもかなりおおらかだたのかもしれません。

だから、別に面倒というわけでもないのですが、意訳はすべて『北八』に統一しています。
2 武蔵野の 『武蔵野の 尾花がすえに かかる白雲』と詠まれたとありますが、5・7・7なのでピンとこなくて調べてみました。
鎌倉時代の勅撰和歌集である『続古今和歌集』の秋の歌として、藤原道方により詠まれた
『武蔵野は 月の入るべき 嶺もなし 尾花がすゑに かかる白雲』
の引用のようです。
まさかその頃、全部を引用することが問題になることもないでしょうから、単に全部書かなくて、端折ってもそれなり有名な句なので、わかるでしょう。と言うとこでしょうか。

意味としては、「武蔵野は地平線まで平らで、月が隠れるような山もない。そこに生えてる尾花(ススキ)の穂先に、白雲がかかっているのが見えるだけ」ということろでしょうか。
かつての武蔵野とはどのようなところだったのかを表しているわけですね。
3 苔屋(とまや) 漢字は、『苔屋』なのですが、ルビは『とまや』です。
苔屋(こけや)…苔(こけ)が生えているほど古い、あるいは寂れている小屋のこと。
苫屋(とまや)…菅(すげ)等を編んだ「苫(とま)」を屋根に葺(ふ)いた、粗末な小屋のこと。
その前に『浦の』とあるので、今も漁師などが使っている小屋のような感じでしょうか。
それでいくと、苫屋のほうがしっくりくるようです。
それとも、苔(こけ)が生えているほど古いが、まだ使われているので、漢字に『苔屋』でルビに『とまや』を使ったのでしょうか。

ここでは、『掘っ建て小屋』にしました。
4 仲の町 新吉原遊郭の中心を貫くメインストリートで、江戸時代において最も華やかで賑わいを見せた通りです。
大門(おおもん)から遊郭の奥へと伸びるこの通りは、夕暮れ時になると灯籠に火が灯り、客や見物客で非常に混雑しました。
ただ、その当時はいざ知らず、『仲の町』で、遊郭をイメージできそうもないので、ここは単に吉原としました。
5 さすがに、きれいな川に住むという鮎(あゆ)が江戸時代の川(神田上水)にいるとは思えませんから、いかに江戸の川がきれいかという比喩なのだと思って調べて見たら、なんと実際に鮎がいたようです。
それで、井の中で鮎を飼っていると訳してみました。
6 駿州府中 弥次郎の生まれた国として駿州府中、後に駿府(すんぷ)とも呼ばれた場所が上がっています。
なんの意味もなく書かれているのかとも思いましたが、調べてみると、なんと作者の十返舎一九の出身地が駿府でした。
弥次郎のモデルなんでしょうか。
7 孝行もの 普通に考えれば『孝行』は、 親によくつくすことですが、鼻之助が弥次郎に尽くすでは弥次郎が入れあげている感じにはなりません。
『孝行』には、それを愛好する者という意味もあり、当時は、男色もふつうに行われていたようで、それを考えると、『この道に孝行もの』は、実際にそうだったというよりそれを期待した感じでしょうか。
それで、『この道に夢中となり』としてみました。
8 銘酒剣菱 江戸中期、徳川吉宗の時代以降に大流行したようです。
その剣菱を売っていた豊島屋は、今も東京都千代田区神田にあるようです。
9 舂米(つきごめ) 簡単に言えば精米することです。
当時は、玄米を仕入れてその場で精米して販売する「舂米屋」というのがあったみたいです。
10 削り友達 これは、飲み友達を表すそうです。
酒を呑みすぎて財産を失うことを、身を削るといい、そこから来ているそうです。
11 おすえ奉公 「御末(おすえ)」とも書き、年季奉公(ねんきぼうこう)の一種で、特に女性の奉公形態を指す言葉です。もともとは「下働き・末端の奉公人」という意味があります。
したがって、身分や技能の低い段階から始める、下働き中心の奉公を意味します。
12 人仕事 他人に頼まれたり、雇われたりして行う仕事のことで、主に賃仕事や内職などを指します。
13 売洒落(からしゃれ) 江戸時代に流行した言葉遊びである「地口(じぐち)」や「洒落言葉(しゃれことば)」の一種です。
特定の地名や言葉に、別の言葉を繋げて韻を踏んだり、意味をかけたりする言葉遊びを指します。
14 おけんつう 髪の毛の先が薄くなり、すれて傷んでいる状態のことを指すようです。
この場合、奥にいる女性を見下したり軽蔑したりする意味の言葉として使われたのでしょう。
15 假宅へでもはまつた この当時、吉原が消失して、仮宅で営業していたようで、それを指しているようです。
そこにはまったということで、つまり、遊びすぎたということですね。
16 疝気 男性特有の下半身が痛む症状はすべて疝気として片付けられていたようです。
女性特有の病気は、血の道症(ちのみちしょう)といわれたようです。
17 腎虚 漢方医学において生命エネルギー「腎気」が加齢や過労により不足・低下した状態です。
腰痛、白髪・脱毛、耳鳴り、頻尿、性機能低下など、老化現象に似た全身の機能低下症状が現れます。
18 抜身
きらず
抜身は、刀をぬいたので「むき身」と語呂合わせ、きらずはおからの一種で、刀からの連想で「きらず」と洒落た。
抜身だと刀なのできれるが、きらず(おから)の味噌汁なので切られないから大丈夫だという事。
洒落は説明すると面白くないですね。
19 兵太左衛門 ここ一箇所だけこの表現になっていました。
それ以降は、「兵五左衛門」になっています。
20 きょくとルビが振ってありますが、この字はくせとも読みます。
この場合、くせと読んだほうが意味がわかるような気がします
意味としては、「ひねくれていない」「素直である」「強情ではない」「無愛想」等です。
“なんとしたあ。曲がない。”
“なんとしたとは、無愛想だな。いやどうと言うことではない。”という感じでしょうか。
21 大屋 『大屋』を借家の所有者として表しているようですが、今は、『大家』のほうが一般的だと思うので、こちらで統一しました。
22 隙(ひま)をくださりませ 当時は、離縁は、夫より妻に対して、三下り半と称された離縁状を渡す事で成立したそうです。
おふつが、この状況によって芝居じみたことを言ってるのがおもしろところなんでしょう。
ところで、ひまには、
「暇」時間的・心理的なゆとり(休み)
「隙」物理的なすき間や物事の切れ目
と、あります。
どちらでもいいような気もしますが、意味を見てみると、『物事の切れ目』という意味ではこちらの方がいいのかもしれません。
23 矢場 最初は地名だと思っていましたが、なんとなく違うようなので調べてみたら、楊弓(小さな弓)で的を射る射的遊技でした。
「矢場女(やばおんな)」を置く店が流行し、次第に私娼の場となり、現在の「やばい」という言葉の語源説のひとつでもあるみたいです。
24 弐本の爪(つめ) 十本の指の二本だけになんの意味があるのかと思いましたが、房時と考えればだいたい想像できます。
25 ねづみいらず ネズミが入らないということだとは思ったのですが、「五合徳利を取り出す」とあるので、たぶん食器棚のようなものだと思って調べました。
ただ、貧乏な弥次郎でも食器棚は持っていたのでしょう。
26 工面せうといつたがせうがにや 江戸言葉で口語調でわかりにくですが、そのまま訳すと、『クメンすると言ったからには、やるに決まっているだろ。』という感じでしょうか。
もっと簡単に『工面出来ねえでどうする。』としてみました。
27 はやおけ 棺桶の中でも安価でかんたんに手に入るものです。
当時は、死者を体育座りのような「座った姿勢」で納める、桶のような形をした棺が主流でした。
棺(ひつぎ)の桶(おけ)でかんおけですね。